バス運転手同士の「挨拶」や「合図」と言えば何を思い浮べますか?
バス運転手ではない方であれば、
「挙手」
「サンキューハザード」
等を思い浮べるのではないでしょうか。
実際に乗客としてバスに乗ったときや、自家用車を運転しているときに、見たことがある方も多いと思います。
しかし、同じ「挙手」や「サンキュハザード」であってもその意味合いは状況によって変わります。
更にそれだけでなく、他にも様々な挨拶や合図の仕方があるのです。
↓筆者の自己紹介
※ここに記載した内容は特定の会社・団体・組織・個人を指すものではありません。またバス会社や仕事によって状況は異なるので、この記事の内容がすべて当てはまるわけではない事をあらかじめご了承願います。
あなたの知らないバス運転手同士の挨拶の世界をご紹介します。
手を挙げる
バス運転手ではない方が思い浮べる、もっともポピュラーなものが、この手を挙げる(挙手)と言う行為だと思います。
バス同士がすれ違いざまに手を挙げてコミュニケーションを取ります。
特に白手袋をしているので、結構目立ちますよね。
しかし実はこの手を挙げる行為、近年では禁止しているバス会社も多いです。
東京バス協会では2013年に、加盟するバス会社に対し挙手を全面禁止とする通達を出しています。
挙手が禁止となった要因は主に、
「挙手が原因で事故が発生した。」
「お客様からの苦情。」
等があげられます。
確かに一時的とはいえ片手ハンドルになるので、両手の時と比較すれば危険と言えば危険です。
またお客様から見ても片手のハンドルの状態は不安を感じるし、そもそも運転手同士の挙手の必要性を感じられないと言ったことがあると思います。
しかし、挙手と言っても実は様々な意味が含まれています。
無意味な挙手は僕も不必要だと思いますが、すべてを禁止してバス運転手同士のコミュニケーションを制限してしまうのもナンセンスだと思います。
挨拶
一番よくあるのが、挨拶の為に挙手することです。
あくまで挨拶なので、特に何かあるわけでもなく、ただ単にすれ違う時に、
「お疲れ様!」
「気を付けてね!」
なんて意味で手を挙げています。
確かにただの挨拶の意味合いだと、安全性や合理性を求めるのであれば、不必要かなと思います。
ただバス運転手ならではの趣も失われていくように感じます。
(そもそも安全運行に趣なんぞ必要ないと言われればそれまでですが…)
ちなみに特に仲のいい乗務員同士だと、相手の仕事内容を見て、どのあたりですれ違うか把握していることもあります。
いざすれ違う時に思いっきり笑顔で挙手したり、後ろから見てても本当に仲良いんだろうなーと思います(笑)
逆に仲が悪い乗務員同士だと、挙手どころか、会釈も目すら合わせずにすれ違うので、見ていてその違いが分かりやすいです。
ありがとう
例えば大型車同士が離合できない狭い道路で、相手のバスを待たせている場合、ありがとうの意味を込めて挙手をします。
これは一般車でもよく見られる光景ですが、バスも同じです。
この時の挙手の仕方もバス運転手によって変わります。
控えめにちょこんと手を挙げる運転手もいれば、
「ありがとーーーーーーーーーっ!!!」
と言う心の声が伝わって伝わってきそうなほどの大きな挙手と同時に頭を少し下げる運転手もいます。
道路状況などを知らせる
これは挙手と言うより、ジェスチャーに近いと思います。
進行方向の道路状況(渋滞、事故、雪、冠水等)を反対方向から進んできた運転手から教えてもらうことがあります。
もちろん停車して直接話して情報交換できればベストですが、特に高速道路上だとそうはいきません。
そんな時は、ジェスチャーで状況を伝えることになります。
すれ違うひと時の事なので、100%伝わるとは限りませんが、
「この先に何かあるんだな。」
という異常を伝えることができます。
僕も教えてもらった経験があります。
市街地から山に向けて走る便を運行していた時。
その日の予報は雪でしたが市街地は全く降っていませんでした。
しかしこれから登る山には雪雲がかかり、雪が降っているようでした。
始発地から終点にかけて雪が降っていれば、最初からチェーンを巻けます。
しかし、このように運行中に巻かなければならない時は気が重くなります。
運行中に巻けばその分遅れますし、なによりお客様が乗車している中で巻くのは、窓から見られるので僕はすごくプレッシャーを感じます。
「始発地から巻いて走ればいいんじゃない?」
と思われる方もいるかもしれませんが、
金属製のチェーンの場合、雪がない路面を長く走るとチェーンが切れることがあります。
切れないようにゆっくり走ると、バス停を通過するごとに遅れが大きくなります。
なによりアスファルトの上を金属チェーンで走ると振動がすごくて、運転手もお客様もストレスを感じます。
そんな中でこの先雪がどこまで降っているかはっきり分からない状況の中で、チェーンを巻くのであればどのタイミングで巻くのかなど色々考えて走っていました。
そんな時、対向から走ってきた先輩が満面の笑みで、「〇」印のジェスチャーをしてくれた時は本当に安心したことを覚えています。
車内の緊急状態を知らせる
車内で何かしらの緊急事態(バスジャック等)が発生しているときに、外部にその緊急事態を知らせる必要があります。
しかし興奮している犯人を刺激してはいけません。
理想は無線や車載携帯から警察なり会社に連絡を取り、詳細な状況を説明できればいいのですが、それはできません。
犯人に気づかれないように伝えるには、車内の異常を車外に伝えて代わりに通報してもらう手段をとります。
SOSボタンを押して方向幕に表示したり、パッシングやハザードランプを点灯する方法はありますが、いずれも光や音を発するものなので犯人に気づかれやすいかもしれません。
僕はまだそのような経験がないので、冷静な判断で伝えられるかどうか自信がありませんが、僕だったらジェスチャーで他のバス運転手に伝えると思います。
一般車でもいいですが、より気が付いてもらいやすいのは、自社・他社バス問わず同業者のバス運転手の方が話は早いと思います。
サンキューハザード
サンキューハザードも使用頻度は高いです。
特にハザードを点滅させる回数は決まっていませんが、2回~3回が多いと思います。
バス運転手によっては、切り忘れてるんじゃないかと思うぐらい何回も点滅させる人もいます。
そんな時は、
「よっぽど感謝してくれてるんだなー」
と内心思ったりします(笑)
逆に進路を譲ったのに、1回点滅するかしないかで消える場合もあり、
「お客さまか一般車か遅れてるせいか分からないけど、イラついてるのかな?」
なんて思うこともあります。
サンキューハザードしなければならないなんて決まりはないので何回でもいいんですがね(笑)
車線変更時
車線を譲ってくれたバスに対して行います。
もちろん一般車やトラックに対してもしますが、特に同じバスの前に入る場合はサンキューハザードの回数を多くして、「より」感謝の気持ちを表している運転手が多いです。
バス停から出るとき
バス停から出るとき、右ウィンカーを出しても一般車はなかなか譲ってくれません。
たまーーーーーにウィンカー出してすぐに譲ってくれる車はいますが、ほとんど3~4台無視されてやっと譲ってくれるような状況です。
県民性や都市部か田舎かによっても異なると思いますが、大体のバス運転手はバス停から出るときに一般車は譲ってくれないというイメージを持っていると思います。
譲ってくれるまで待っている時、一般車の後ろにバスが見えたらキラキラ輝いて見えます(笑)
回送中のバスや後発のバスに追いつかれた時ですが、よっぽどのことがない限り譲ってくれます。
そんな時はサンキューハザードを出して、ありがとうの気持ちを伝えます。
邪魔をしてしまった時
バス停から出るとき本来であれば、
①右後方確認(安全確認)
②右方向指示器(バス停から出る意思表示)
の順で動き始めますが、繰り返しバス停で乗降扱いを行っていると、先に方向指示器に手をかけてしまい順序が逆になってしまうことがあります。
どちらにせよしっかりと後方の安全確認は行うのですが、その時たまたまバスが来ていた時は、バスを停めてしまうことになります。
もちろん停まれないと判断した時はそのまま通過しますが、バス停に停まっているバスを見ると、「どのタイミングで出てくるかな?」と気にしながら走っています。
もう出てこないだろうと思って通過しようと思ったタイミングで、右方向指示器が点滅すると少なからずびっくりしますし、無理のない範囲内で譲ってあげようとします。
まず右後方を確認していれば、後方のバスを先に行かせてから方向指示器を出します。
しかし、先に方向指示器を出した後に、後方からのバスが見えると、
「しまった。」
と心の中で思い、譲ってくれた時は、
「ごめんなさい(>_<)譲ってくれてありがとうございます。」
という気持ちでサンキューハザードを点滅させます。
ヘッドライト消灯
バスのライトを真っ暗にするわけではありません。
前照灯(ヘッドライト)を消灯しスモールライト(車幅灯)だけにします。
特に夜間走行中にスモールライトだけにして走行するのは危険ですので、基本的には一瞬だけ切り替えます。
進路を譲る時
先ほどバス停から出るときの話をしましたが、譲る側のバスはどのような意思表示をするかと言うと、夜間であればヘッドライトを消灯します。
譲る側も明確な意思表示をしないと、バス停から出る側も行っていいのか迷うときがあるので、
「早く行ってよ…」
とならない為にもしっかりと意思表示をしましょう。
正直、譲る側も譲られる側も同一進行方向の場合は、譲る側が減速したり、停車してくれれば、
「譲ってくれたんだな。」
と分かりやすいですが、対向している場合は特に譲る側の明確な意思表示が必要です。
例えば、狭隘道路などでバス同士がすれ違う際に、お互いが停車して譲ってあげようとにらめっこしてしまうときがあります。
僕はこういう場合には、停車して相手が通り過ぎるのを待ちたいタイプで譲る側なので、ヘッドライトを消灯して早めに意思表示をするようにしています。
ちなみに、ヘッドライトを消灯するということは当たり前ですが夜間にできることで、昼間はどのように合図をするかというと、パッシングで意思表示を行います。
眩しくないようにする時
赤信号で停車した時に前にバスがいる場合、先頭で停車した時に対向にバスがいる場合など、眩しくないようにヘッドライトを消灯することがあります。
また、交差点の信号で先頭に停車した時、右左折して来るバスが、横断歩道の自転車・歩行者の安全確認をしやすいようにヘッドライトを消灯することもあります。
ウィンカー
例えば僕が高速道の走行車線を90キロで等速走行していたとします。
後方から95キロで走ってきたバスが僕のバスに追いつきましたが、そのまま抜いていくと思いきやなかなか抜きません。
なぜ抜かないかは、バス運転手によって様々な思惑がありますが、僕は後ろにバスについてこられるのは好きじゃありません。
一般車やトラックならまだしも、同業者のバスだと僕の走りをじっくり見られてるような気がするからです。
そんな時は左ウィンカーを点滅させて、
「お先にどうぞ。」
と意思表示を行います。
そうすると、ほとんどのバスは追い越してくれます。
クラクション
最後のクラクションはバス運転手同士の挨拶というより、バック駐車時の誘導員への合図になります。
一般車同士であれば、ありがとうの意味で、
「ピッ」
とクラクションを鳴らすと思いますが、バス同士ではあまりクラクションを鳴らしません。
一般車のクラクションと比べてバスのそれは音量も大きいですし、苦情の原因になりかねません。
ではどういうときに鳴らすのかというと、バック駐車しているときに、誘導員(バスガイド、駐車場の係員、警備員等)へ向けて、
「誘導してくれてありがとう。」
「もうこれ以上バックしないよ。」
との意味を込めて軽くクラクションを鳴らします。
もちろん時と場合によっては鳴らさない事もあります。
夜間で周辺に住宅街がある場合や、ホテル・旅館の目の前にバスをつける場合などは、迷惑になるので鳴らしません。
【まとめ】手を挙げるだけじゃない、バス運転手同士の挨拶、合図とは?【あなたの知らないバス運転手の挨拶の世界】
バスは一般車よりも車体が大きいために、事故を起こしてしまうリスクが高くなります。
バス運転手同士の挨拶、合図は、安全かつ円滑にバス運行するために必要な、バス運転手同士のコミュニケーションの1つなのです。
バスに乗車した時や、バス同士が出くわしたとき、いったいどの様なコミュニケーションを取っているのかな?と言った視点でやり取りをみると、また違った見え方ができて面白いかもしれませんね。